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第二句集「雪のワルツ」近代出版社
随筆「屏風」 青柳菁々


ものを書くとき夏でも屏風をうしろに立てて書く人がある。私の友人で影山君といふ人が、妊婦がお産をするやうな工合に暑中苦心の作をつくるときは、屏風をうしろに立て廻はし、必死の姿である。

さて、屏風については、私には秘蔵物語がある。それは谷崎潤一郎先生が、かつて私が文学青年のために、雑誌「文学の世界」を創刊したときに、「客ぎらひ」といふ随筆を、私の懇請により特別にかいて下さつたが、この原稿は和紙に先生独自の美しい筆跡で、実に芸術的な匂ひのする原稿に書きあげられた。私は之を記念にすべく、之を若い表装師で、表装は芸術と信じて精進してゐるKといふ青年に頼み、谷崎先生の書斎の裏が京都の白河の流れであることから、屏風の裏も銀とねずみで流れを象徴した大きなうねりの貼り込みとし、字の方もまわりはうすみどりの支那絹を以て彩つた。さて屏風の句であるが、

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歌屏風立て 巡らして 女児出産垂 水
医師来ると屏風のうちに身づくろひ竹 揺
屏風の絵贋蕪村とは知つて居り三太楼
絵屏風の大原御幸静かなる三士生

などなかなか屏風の句には面白い句が沢山ある。

浮世絵のききしにまさる屏風かな潮 風

こんなすばらしいものもある。また

嫂と世帯を頒つ屏風かな漱 水

これは今の住宅難も、昔の住宅難も想像される句だ。