6. ロッキー山脈展望列車(カナダ)
朝焼けのバンフ駅
「口ッキー・マウンテニア・レイルツアー」はバンフ国立公園のバンフ駅から始まった。10月早朝の東の空が山の稜線の上で紅く染まっている。薄雪の駅で山岳列車の入線を待つ間、駅舎の外に出て 疏林に集う野鹿の群れを見た。


全方向に山脈が見える展望車

乗車記念ほマーク入りグッズ、絵葉書、ビデオ


この旅は目的地に着くのが目的でなく、走ること自体が目的だ。
北米大陸西部に聳える口ッキー山脈は南北3000キ口、力ナディアンロッキーは最北部に位置する。横断列車は山脈を東西に貫く。
「従来の大陸横断列車は景勝を楽しむベき区間を夜間に通過してしまいました。そこでマウンテニア号は中間の力ムループス駅で列車を止め、乗客はもちろん乗務員もホテルに泊まるという画期的なダイヤを組んだのです」と同行の林弥太郎さん((株)カナディアンネットワーク取締役)が説明する。午前9時「オールアボード!」 (全員乗車!)の号令が掛かる。
シャンパングラスの彼方の秀山
悠然と車間を繋くビッグホーン・シープ。ビッグホーン・シーフは列車のシンボルマーク
日本旅行作家協会の18人は各国の乗客と入り混じって着席。行程2日にわたる観光列車は、無言で動き出した。シャンパンが配られ一同よき旅路を祝って乾杯した。1990年に始まったデイライトトラベルは、ます大西洋に注ぐボー河沿いを逆行して勾配を上りバンフ国立公園とヨーホー国立公園を通過、山頂に光る山岳氷河を遠望する。昨日レイクルイーズをドライブしたとき、車道を悠然と歩くビッグホーン・シープに出会った。列車のシンボルマークはこの動物だ。最大五十種の動物が見られるという沿線に目をこらす。
昼食はフルコース
展望車での昼食は温かいスープ から始まるワイン付きフルコースだった。普通車は冷製弁当だ。
私達の半数は奮発してシルバーリーフの展望車を選び身分証明の力エデ葉の銀バッジをもらった。上下左右の風景は、展望車の曲面ガラスから手に取るようだ。天空に触れなんとする山脈の大分水嶺をゆっくり越えた。以後、沿線の川は太平洋に流れる。
単線なのに百両を超える貨物列車とすれ違った。駅や信号所に引込線があるのだった。
入線を待つ薄雪の駅はまだ無人
防雪トンネルが続く。北米随一 のコンノート隠道は9キ口もあり抜けるのに約20分かかった。車掌のジョークを交えた説明に爆笑が上がる。残念だが私の英語力ではついていけない。ときどき私にパンフレットの何々ページをご覧なさいと言ってくれる。
夜のカムループス
少女も加わるデキシーランド楽団
日が暮れて力ムループスの素敵なタウンロッジにチェックイン。 すぐに町中の大宴会場「ツー・リバー・ジャンクション」に移動し晩警会となる。会場の名は先住民族語「力ムループス(2つの水の出合うところ)」の直訳だろう。
デキシーランド楽団に迎えられ 踊る先住民シュシュワプ族を前にセルフ・サービスで食事をした。
大混雑だがみんなマナーがいい。欧米人達は陽気な演奏に浮かれて手拍子を始める。「ユー・アー・ マイ・サンシャイン」や「マーチング・スルー・ジョージア」など聞き覚えのある音の曲ばかりなので、私達もノって楽しく歌った。
翌朝、私達の列車はジャスパーから来たマウンテニア号を連結、20両を超える大編成となって終着バンクーバーに向かった。逆行する列車はここで分割される。
2日目のスペクタクルは鉄橋である。トンプソン河で7度、下流 フレイザー河で2度橋を渡った。切れ込んだ峡谷は九州の高千穂峡に似ているし、よどんだ緑の池と倒木は上高地のようだ。
晩夏、上流のアダムス河へ鮭の大群が産卵に遡上する。地磁気と故郷への嗅覚が彼等を太平洋から560粁ナビゲートする。
鉄橋を渡り、山腹を走る
トランス力ナダ・八イウエーが見え隠れし、燦たる陽光はレインボー・キヤ二オンの崖に七色に反射した。3000メートルの山は1万年前、6000メートルであった。ふと一瞬、俄かに黒雲が天を覆ってビショビショの雨。窓外は墨絵の風景に一変した。バンフからバンクーバーまでの森羅万象を見た旅は私の生涯の最良の一つとなった。


パンフ国立公園の朝焼け

世界の旅へ